白玉庵のいちにち

表千家茶道教室

黒田正玄十三代目のお話 1

さて、茶勺である。
お茶のお稽古の席では、「正玄(しょうげん)のうつしもので、銘は石清水でございます」などと言っている。
この場合、お稽古用のお茶勺のご銘なので自分で名付けてもいいけれど、たいてい先生におうかがいする。
(ご銘のあるお茶勺の場合は、箱書きに記されているご銘ほかをあらかじめよおく暗記して臨むことは言うまでもないことである。ただし、暗記したら一旦それを手放す。そうしないと、お点前のときにまでご銘ほかがちらちら顔を出し、お点前が乱れる。しかし、いざそのときになって、手放したものがすんなりと帰ってこないこともあるので、こころのなかで慌てることもある。しょっちゅう。)
さて、正玄のうつしものである。
「先生、何にいたしましょう」。
すると、先生が「そうですね、石清水がよろしいでしょう」などと言ってくださる。
季節を少し先取りするのがよいのだが、わたしが好きな銘は「半夏生」。この言葉を先生が口にされると、ああ、もうすぐ本格的な夏がやってくるのだ、と思うのだ。そして、先生のお庭でも、半夏生の葉っぱが少し白くなりはじめている。
よその社中の方がたのことは知らないが、わが社中では常より勝手に拝借しているお名前である「黒田正玄」。馴染みはあまりにも深い。十三代目まで続いているのだから、ある種、歴史上の人物のようにも思える。そうした方であれば、実物にお目にかかることなど滅多にないだろうと、川口まで出かけていったのは、これから本格的な夏がはじまるという季節であった。
ところが、その報告をしようとするいまは、夏が終わろうとしている。なんという時間の過ごし方をしているのだろう。
(時が経ち、文体は変わっているが、いまはこの気分で。)