白玉庵のいちにち

表千家茶道教室

「ひとりをいのったばっかりに」






ひとりをいのったばっかりに     山本かずこ


あの子が幸せでありますように

(みんなむかしからのきやうだいなのだから
 けつしてひとりをいのつてはいけない)*

けれども
あの子が幸せでありますように
わたしはおいのりを
つづけました

(みんなむかしからのきやうだいなのだから
 けつしてひとりをいのつてはいけない)

旅先でも
おいのりを
つづけました

あの子が幸せでありますように

ある日
ジャカルタにいるわたしに
電話がかかってきて
「お父さんが死んでしまった。」というのです
前日、会ったばかりの
お父さんが
ひとり(ぼっち)の家で
お風呂に入っているときに
死んでしまった、と

(みんなむかしからのきやうだいなのだから
 けつしてひとりをいのつてはいけない)

けれども
もうすぐ
あの子は
嫁ぐことになっていました

あの子が幸せでありますように

わたしが
ひとりをいのったばっかりに

いいえ いいえ
決してそうではなかったと
わたしは こころのそこから
ねがいます


  *宮澤賢治「青森挽歌」より


詩集『いちどにどこにでも』(ミッドナイト・プレス刊)から