白玉庵のいちにち

表千家茶道教室

「いまでも時々思い出す」


いまでも時々思い出す      山本かずこ




ちゅうおうせんの
しゅいろの電車がはいってきた
小さな女の子(恵)が
若い両親と手をつないでいた
幸せそうにみえるのだった
ドアがひらいたとき
両親は右と左にわかれてドアに向かう
そのとき
小さな女の子(恵)の手をふたりとも離していた
一瞬
ホームにとりのこされた子ども
母親(わたしのことだ)は
あわてて舞い戻る
子どもは何にも言わずに立っている
泣きもせずに
まっすぐ前を向いているのだった
母親(わたしのことだ)もみず
父親もみず
ひっそりと からだ全体で
運命を受けいれている、ような気がした

動き出した
ちゅうおうせんの
しゅいろの電車の音は、
きこえなかった
 

詩集『いちどにどこにでも』(ミッドナイト・プレス刊)から